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【輸液編】研修医にオススメの本3選【2020年】

研修医にとって最初に悩むものの一つが輸液でしょう。
上級医から、「適当に輸液入れておいて」と言われ困ってしまった経験がある方も少なくないはずです。

輸液について書かれた本はたくさんありますが、初学者にとっては難しく途中で挫折しがちな印象があります。


誤解を恐れずに言えば、実用の範囲で押さえておくべき内容はそんなに多くありません。ただし輸液の世界は奥が非常に深く、完璧に理解するとなるとかなりハードルが高いです。
このギャップによって輸液は難しい、という印象が強くなってしまうのかもしれません。


またまた誤解を恐れずに言えば、輸液に関しては上級医でもあまり理解していない人が相当数いますが、それでも問題にならないことがほとんどです。

だからと言って、適当にやっていいものとは考えていません。
ちゃんとした考え方を理解した上で、ある程度は大雑把に、大きく間違えることがないことを目指すのがよいと思います。

そう考えると、輸液で押さえるべきポイントというのは実はシンプルです。まずはそれを押さえた上で、少しずつ理解を深める意味で参考書を利用するのがよいと思います。(いきなり完璧を目指すと挫折します)

他の頁でも述べますが、経験がある程度積めて来たら集中治療の勉強をすることをお勧めします。
なぜなら輸液が本当の意味で完璧に管理されるべきなのは重症患者を扱う集中治療領域だからです。そこにおいては適当な輸液投与は命取りになります。
集中治療領域、特に敗血症(敗血症性ショック)での輸液の考え方・戦略を勉強することで輸液への理解はグッと深まります。

それでは、本の紹介の前に輸液について3行要約をしてみます。

輸液の3行

  • 輸液の目的を明確にする
  • 血管内と細胞。自分が輸液を入れたいのはどっち?
  • 細胞外液と維持輸液の2つを押さえれば十分

輸液の目的を明確にする

輸液が苦手な人はここがぼやけていることが多いです。
自分が輸液をする理由が、単にルートをキープするだけなのか、食事を食べられないから補給をするためなのか、重症で血圧を上げるためにするのか(厳密な言い方ではありませんが)。
そこを意識することから全ては始まります。

血管内と細胞。自分が輸液を入れたいのはどっち?

人間の体を単純化すると、細胞、血管内、そしてその間を埋める間質に分けることが出来ます。
さらに単純化して間質を除き、細胞と血管内に分けてしまいましょう。(間質は重症患者をみるうえでは重要になりますが、まずは無視してしまって良いです。)

その上で、目の前の患者さんの細胞、血管内を想像します。
今一度輸液の理由を思い返し、自分はどこに輸液を入れたいのかを考えます。

細胞外液と5%ブドウ糖液の2つを押さえれば十分

輸液にはいろいろな種類があります。
初学者はそれらの特徴を完璧に押さえて使いこなさないといけないような気持ちになると思いますが、そんなことは決してありません。

細胞外液(生理食塩水、リンゲル液)、5%ブドウ糖液の2つを押さえれば十分です。最初はリンゲル液すら無視して、生理食塩水と5%ブドウ糖液の2つでよいかもしれません。

使用法は明確です。
生理食塩水は血管内に輸液を留めたいとき、ブドウ糖液は細胞内にも届けたいときと考えます。
血管内の容量が減少していて血圧が下がっている、と想定されれば選択すべき輸液は生理食塩水になることが分かります。


さらに輸液は大雑把に言って、この2つを混ぜたものです。
例えば維持輸液(3号液)と言われるものは生理食塩水:ブドウ糖液を1:3で混ぜています。それが食事を摂れない患者の輸液に適しているというだけのことです。

あくまでも初学者向けにシンプルにしてみました。
もちろんこれはほんの触りに過ぎず、これで輸液が使いこなせるわけではありませんが、基本的に必要な考え方は上記の3行に集約されます。
つまり輸液の目的を考え、狙う場所を定め、そして適切な輸液を選択する。これに尽きます。

それを踏まえた上で参考書を読んでいくことで理解はより深まると思います。

おすすめの本

レジデントのためのこれだけ輸液

電解質輸液塾

ICU輸液力の法則

レジデントのためのこれだけ輸液

輸液の本はいろいろと読んできましたが、初学者に絶対的に薦められる本というのはなかなかありませんでした。
なので私が指導する立場になった際は、自身で要点をまとめたパワーポイント等で研修医教育をすることがほとんどでした。
ただ最近出た本(2020年7月出版)である「レジデントのためのこれだけ輸液」は正直、

ついに出たか!

という決定版のような本です。
これは本当に右も左も分からない研修医の目線で書かれていて、最初に読むべき本として強く薦められます。(実際よく売れているようです。)


本の構成として理論は一旦後回しにし、まずは現場で何の輸液がどんな速度で必要かということがシチュエーション別に曖昧さを排除して迷いなくズバッと記載してあります。(研修医目線からすると、これって本当にありがたいんですよね…。)

その後に理論が記載されてあり、各シチュエーション毎にその輸液が選ばれた根拠が記されています。
図示も含め非常に分かりやすい記載となっておりますが、実は網羅性も高く結果的にはかなり細かいところまで言及されています。
繰り返し読むことが想定されているようで、1周目は飛ばしてもよいところ、など親切な設計になっています。


本書のデメリットを挙げるとするならば、これでも初学者の1冊目としては情報量が多い気がします。輸液がどういうものか知り、実践的に処方出来るようになることを目指す上では、前半の章(1~5章)を読み込めば十分かなという印象を受けました。
逆に言うと、全体を通して言えば今後の医師人生の過程で何度も何度も読み込む価値がある本とも言えそうです。

電解質輸液塾

私自身がかなりお世話になった本です。
分かりやすさでも上で紹介した本に引けを取りませんが、構成が低Na血症の考え方、から始まるため少しだけとっつきにくく見えてしまうかもしれません。

初学者はテーマ05の輸液の考え方から読み始めることをお勧めします。
少し経験を積んでくると、電解質異常に遭遇する機会の多さに気付くと思うので、その際には各電解質異常の項目を読むことで理解が深まります。読みやすく、非常に分かりやすいです。(恐らくこの本が電解質を先に持ってきているのはそこが真骨頂だからだと思います。)

本には相性もありますし、複数を併読することで見えてくるものもあります。上記2冊は両方とも買うことをオススメします。(もし、どちらか一つというならば上で紹介した本の方が初学者向けかつ細かいところにも手が届いている分良いかもしれません。)

※現在新品がないようです。M2PLUSに電子書籍版があるためそちらでも良いかもしれません。

ICU輸液力の法則

これは名前の通り完全に初学者向けではありません。
私自身、読んだのが集中治療管理をバリバリ行うようになってからであったので初学者がこの本を読んでどういう感想になるかは想像出来なかったりします。

現代の集中治療において、輸液管理の重要性は非常に高いです。
輸液管理は循環管理において大きなウェイトを占めており、そこをマスターするためには生理学的な知識が必須です。生理学の面から循環を解説している本は多々ありますが、その中でもこの本は輸液にフォーカスした1冊となっており、内容が深い上に圧倒的に分かりやすいです。(本来、循環の生理学を解説した本はどうしても難解になりがちなのです。)

この本の内容を理解出来れば輸液に関してはほぼマスターしたと言って良いと思います。

とは言え、経験がない中でこの本を理解するのは恐らく至難の業です。
研修医にオススメの輸液本として挙げるのも不適切かもしれません。
ただ本来は相当に複雑で、理解するためには多大な努力を要する集中治療領域での輸液がここまで分かりやすく紐解かれている本は他にないからこそ、ゴールを確認する意味でも1冊持っておいて損はないように思います。

まとめ

3冊の本を紹介しましたが、初学者の1冊目としてオススメなのは
「レジデントのためのこれだけ輸液」です。


前半の章を読み込んだ上で現場に当たることですぐに自分の中にイメージが出来てくると思います。
入り口が分かれば、その後は経験を積みながら少しずつその奥深さも分かってくるはずです。最初の方でも述べましたが、めちゃくちゃな輸液をする先生は実は結構多いです。
何事も最初が肝心です。しっかりと使いこなせる医者になることを願っています。

ABOUT ME
Kn
中堅医師。総診集中治療医として休みなし病院泊まり込み生活の日々を経た後に転職し、現在はスローライフ満喫中。iPadには1000冊を超える医学書が眠る。自身の振り返りを兼ね、本当に有用な本を紹介していく。