医師国家試験合格を経て、晴れて研修医になったはいいものの、ここが新たなスタート地点。気を引き締めて勉強のために本を買おうと思っていても、種類が多くて困りませんか?
よく指導医クラスが口を揃えて言うのは、
「昔は分かりやすい本なんてほとんどなかったから、今の研修医は恵まれている」ということ。
確かに以前は医学書というと難解な分厚い教科書、というイメージがありました。口語調で分かりやすく、比較的読み切るのも簡単な本は最近になって急増しております。
ただしそれ故にいろいろなレベルの本が混在しているのも事実。いくら分かりやすい本と上級医が薦める本でも研修医になりたての頃には難しい、なんてことはよくあります。
自己紹介
私は中堅医師です。
総診集中治療医と自身を称している、いわゆるジェネラリストです。
総合診療医に憧れて市中病院で研修し、そのまま後期研修医、スタッフとずっとひとつの病院で働いていました。内科の体制が壊滅的であったことから4年目にしてほぼ総合診療科のリーダーとなり、同時に集中治療管理も行う必要があったため病院に頼み込んで短期の外部研修を行った後は総診と集中治療管理を並行して行ってきました。
それらをこなしていく上では大量の勉強量が必要でしたが時間がなく、いかに効率良く学習するかを考える必要がありました。とはいえ、当時は効率化する方法などなかったのでとにかくいろいろな医学書・参考書を片っ端から買っては読みました。
当初はなるべく簡単そうな本を選ぶようにしていましたが、簡単に書かれているように見えても全然頭に入ってこないものもあり、そういう本は一旦諦めいわゆる「積ん読」しておりました。
ただ、そういう本も自分が成長した後に読むと驚くほど分かりやすく、なぜこんなにも良い本なのに自分は理解出来なかったのだろう、と不思議に思う経験が何度もありました。
分かりやすい医学書が多くあって恵まれた時代であるのは間違いありません。
それでも、ステージ毎に選ぶべき本、後回しにすべき本というのはあります。
私はトータルで1000冊以上の医学書を買ってきました。そして自分の成長の過程でどの本がいつ役に立ったかということをメモに記してきました。
本を買うのは楽しいですが、正直無駄遣いと思う人も多いと思います。(自分を振り返ってみても、もはやお金のかかる趣味としか言いようがありません。)
少しでも無駄がなく良い本を選べる手助けが出来るように、浮いたお金でもっと有意義なお金の使い方が出来るように紹介していけたらと思います。
前置きが長くなりましたが、本題に入っていきます。
形式としては、各ジャンルの概要を説明しつつ各々において最もオススメの本を1冊(当直だけ2冊)ずつ紹介していきます。
当然本の紹介としては足りないので、各ジャンルについて改めて本をリストアップする記事を作成していきます。
目次
当直
当直関連の本はたくさん出ていますが、私が研修医の時にヘビーユースしたのは、
- もう困らない救急・当直 ver.3
- 東京ER多摩総合マニュアル
の2つです。
病院によって多少異なるとは思いますが、多くの場合研修医は当直で診断や治療をいきなり求められます。
そこで急成長する、とよく言われますが正直研修医にとってはかなりストレスです。
慣れない仕事でストレスがかかっている中、本来寝るべき夜中に起こされ患者を診察する。
そんな中、優しく助けてくれる本が上記の2つです。
もう困らない救急・当直 ver.3
研修医初期に向くのは林先生の「もう困らない救急・当直 ver.3」かと思います。
患者の主訴が分かったら、ひたすらそのページを読みます。
まさに当直のセッティングを想定した内容で、「最初の5分ですべきこと」「次に何をすべきか」「この時点で考えるべきこと」「鑑別診断のキモ」「検査はこうする」「当たりをつけた後の治療・処置」「その後の対応」と時間軸を意識した内容となっています。
書いてある内容も要点が絞って記載されており、今見ると必要十分だな、という印象を受けます。
ただそれは恐らく一つ一つの記載に対して自身の詳しい知識や経験、エピソードといったものが連想されるためと思われ、正直初期研修医の始めの頃は知らないことだらけなので何度も何度も読みこなす必要があります。(自分自身がそうでした。)
東京ER多摩総合マニュアル
少し慣れてきた研修医にオススメなのが多摩のERマニュアルです。
この本は、私自身は2年目の時に出会いましたが衝撃的でした。当直対応にも慣れてきた頃でしたが、今ひとつ頭がぼんやりとしている感覚があり、それぞれの症候について要点や鑑別、治療などを簡潔にまとめようと思っていた矢先。いきなり完成形に出会ってしまいました。
「もうこれでいいじゃん」というのが当時の率直な感覚です。後輩の研修医には必ず薦めています。
研修医の初期に見たらどういう感想になったかは分からない、というのが正直なところですが、「これを対応出来るようにするのが研修のゴール」という感覚で初期から手元に置いておくのをお勧めします。
他の当直に関するオススメの本については別記事でまとめる予定です。
輸液
輸液は最初の壁の一つでありながら、最初をいい加減にしてしまうとその後ずっといい加減なまま医師年数が積み重なってしまう危険性があります。
研修医として押さえるべき点は至ってシンプルでありながら、輸液自体の奥は深いためどうしても参考書がややこしく見えてしまうのも悩ましい点です。
長らく「決定版」と言える本がなかった状況でしたが、
レジデントのためのこれだけ輸液
この本が状況を一気に変えました。
今なら、最初に読むべき本としてこの本が最善でしょう。
輸液の本はどんなに分かりやすく書かれていても入り口の理論で躓いてしまい、分かりやすさまでたどり着けない人が多くいるのが現実です。そんな中、著者は意識的に入り口初学者目線になるように工夫しており、最初に読むべき、と手放しで勧められる出来になっています。
さらに詳しい、研修医にオススメの輸液本については別に記事を作成しています。
抗菌薬
これまた研修医がぶつかる大きなジャンルじゃないでしょうか。
まずは言われた通り抗菌薬を処方する、でいいのですがそれを続けていてもいまいち自分で選べるようになる気がしない。
そもそも医者によって処方の仕方(種類も量も)がてんでバラバラで、真剣に上級医の処方を分析すればするほど混乱してくる。
さらには本を見てもものによって違うことが書いてある。
そんな感じで悩んでいる方も多いと思います。
詳しくは別記事にしますが、長らくこの本で必要十分、と言えるような本はありませんでした。
なので上級医から教えてもらえる場合はラッキー、そうでない場合は自分でいろいろ本を併読しながら試行錯誤していくしかなかったのです。
ただ現在は状況が変わっています。
感染症プラチナマニュアル
これは衝撃的な本でした。
正直薄い本で読みやすいのですが、自分のような総診集中治療医にとっても必要な情報が網羅されています。
1冊を勧めるならこれ一択です。
ただうまく使えばこれ1冊で足りるのですが、どううまく使うかまでは書かれていません。もちろん本の特性上、初学者に絞った章構成にするわけにはいかないので仕方がありませんが。
なので抗菌薬に関しては、別記事で自分が研修医に教えていたやり方を開示します。それを一枚挟むことで本の使い勝手も飛躍的に上昇することと思われます。
また、それ以外にも素晴らしい本がいくつかあるので紹介していく予定です。
内科(総合内科)
研修で内科が重視されるようになって久しいと思います。
総合診療、という領域においても関心を集め、それを自身の専門性として進んでいく医師(私も含め)が増えています。
研修によっては内科の各科をローテートしていくところもあると思いますが、いずれにせよ共通しているのは内科の考え方です。
問診から始まり、身体診察、鑑別診断、検査、確定診断、そして治療という基本的な流れ・考え方は普遍的であり、その後どの専門科に進むとしても避けては通れないものです。当たり前のようであって、一見簡単そうに見えて、実は一つ一つが驚くほど奥が深いです。
このテーマにおいて紹介すべき本は
Dr宮城の教育回診実況中継
教育というものは基本的には先生は答えを知っていて、その答えに至るまでの過程を生徒に教える、というスタイルが基本だと思われます。
ただ診断でそれをやってしまうと効果的な学びからは遠ざかってしまうと考えられます。診断ほど先に答えが分かってしまうと簡単に思えるものはありません。
答えから見ると、道は一本道に見えます。しかし、それは大量に枝分かれした道の1つに過ぎません。
その道を選ぶためには、多くの道を排除する必要があったのです。
やや回りくどい話になってしまいましたが、何が言いたいかと言うとこの宮城先生の教育回診は答えを先に知らない状態です。研修医のプレゼンテーションを聞きながら、その時点で考えられる鑑別疾患だったり病態だったり、次に予想される身体所見であったり、そういうものをリアルタイムに共有してくれるというものです。
結果論ではなく、優れた臨床医の頭の中を実際の症例ベースで教えてもらえるという画期的な本です。
とは言え、今ではそういうスタイルも珍しくなくなってきました。総合診療の周知とともに、リアルタイムで吟味していくスタイルは増えてきています。(千葉大学の生坂先生などもその道で超がつく優れた臨床医です)
この本が執筆されたのは2006年。この沖縄からの流れが日本の医療を変えていったといっても過言ではないと思います。
ちなみにこの本の症例は、適当に集めた症例ではなく、研修医向けに学びが多いものを吟味して選ばれた、よりすぐりのものです。そのことは研修医の時はわかりませんでしたが、経験を積んだ今になって見返してみると強く実感します。
何度も何度も読み込むことをお勧めします。
集中治療
私は研修医のうちに集中治療を学ぶべき、と考えています。
なぜか、それは今後必ず自分を助けてくれるからです。
私個人の考えですが、集中治療はディフェンスだと考えています。
サッカーが分かりやすいかと思いますが、点を取られないように守備をする仕事です。
医療は基本的に失敗が許されません。もちろん人間なので失敗をすることはあるわけですが、いっぱい失点してもいっぱい得点すればOK、という類のものではないことは理解できるでしょう。
フォワードにメッシやクリスティアーノロナウドがいるが、ディフェンダーは小学生、というチームがあったとしたら、
相手が弱いチームなら恐らく圧勝するでしょうが、少し強いチームになったら負けてしまう可能性があります。
集中治療の知識が脆弱な臨床医が行う医療はこれに似たものだと思っています。例えば肺炎ひとつにしても、軽症であれば抗菌薬を使っていれば輸液とか栄養管理がめちゃくちゃでも、呼吸管理の知識が乏しくても、患者は良くなります。(最悪、抗菌薬が外れていたとしても)
ただ、重症になるとそうはいきません。簡単に患者を失うことになるでしょう。
集中治療というと人工呼吸器やCRRT(CHDF)、今流行りのECMOなど、そういう機械類や派手な治療にばかり目が行きがちですが、あくまでも集中治療はディフェンス、ということを理解すべきです。
ICU/CCUの薬の考え方、使い方 Ver.2
迷いましたが、オススメの本と言えばこれになるでしょうか。
集中治療という分野の性質上、どうしても生理学の理解が重要になるため1冊で全てを簡単に分かりやすく、という本は難しいと思います。
田中竜馬先生の呼吸器の本、人工呼吸器管理の本や小尾口先生の血液浄化(CHDF)の本であったりと本来難解で挫折する人が多いところを圧倒的にわかりやすく解説してくれているものもあるので、うまく併用しながら全体の理解を深めることが目標です。
紹介しているこの本は「薬」の本と銘打っていますが、本質は集中治療そのものを生理学の観点から解き明かした本です。
今まで別枠と捉えていた生理学が全部繋がってくる経験が出来ると思います。
もちろん処方についても記載されているので現場での即戦力としても期待出来ます。
この本は結構分厚く、本来通読に向かないタイプに見えますが通読をお勧めします。何度も何度も読み込む価値があります。
研修医にオススメの集中治療本に関しては別記事でまとめる予定です。
おわりに
いかがだったでしょうか。
各ジャンルで一番オススメの本を挙げているためどの本も買って絶対に後悔はないと言い切れます。
またそれぞれについてもっと詳しい記事も適宜作成していきますのでお待ちいただければ幸いです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。